フェレットのインスリノーマ
フェレットのインスリノーマについて
川崎市、多摩市、横浜市、稲城市、大田区、目黒区、世田谷区の皆さんこんにちは。
川崎市高津区のくらた動物病院院長の倉田英樹です。
今回は、フェレットに多く見られるインスリノーマについて解説します。
2024.08.24最終更新
インスリノーマとは
インスリノーマは、主に中高齢期(約4歳以上)のフェレットに発生する疾患で、血糖値が低下する病気です。当院では、文献に基づき血糖値が70mg/dl未満の状態を病的な低血糖症と定義しています。
中高齢(4〜5歳以上)のフェレットは健康体でも活動低下が見られますが、低血糖症との外見上の区別は困難です。健康診断で無症状のフェレットにも低血糖が発見されることが多く、潜在的に低血糖症を抱えるフェレットは多いと考えられます。
インスリノーマの原因
フェレットの低血糖症の事実上全ては、膵臓に発生したインスリノーマと呼ばれる腫瘍が原因となります。
膵臓に存在するβ細胞と呼ばれる細胞が腫瘍化したものがインスリノーマです。
膵臓のβ細胞は血糖値を低下させる作用のホルモンであるインスリンを生産する細胞です。そのため、腫瘍性に増殖したベーター細胞からは過剰なインスリンが生産されてしまいます。この過剰なインスリンが低血糖を引き起こします。
糖尿病の患者さんがインスリンの注射を誤って多く注射し過ぎた場合と似ていると思われます。しかも、この過剰な状態が持続的に発生しますので、低血糖状態が慢性化します。
インスリノーマの症状
フェレットのインスリノーマの症状は主に2つのグループに分けられます
1.低血糖による中枢神経系への影響:
血液中の血糖値が一定水準以下に低下すると中枢神経組織の機能低下が発生し、以下のような症状が出てきます。
・意識混濁や意識消失
・活動性の低下
・後肢のふらつき
・痙攣発作(重度の場合)
2.交感神経の過剰興奮による症状
血糖値が下がると、体が血糖値を上げようと、交感神経を刺激します。
しかし、過度に刺激されすぎると下記のような症状が出てきます。
・心拍数の異常な上昇
・呼吸数の増加
・全身の皮膚の発赤
・ヨダレの増加
・虚脱状態
また重度の低血糖状態でも、低血糖の状態に慣れることで症状があまり現れない「無症候性低血糖(無自覚性低血糖)」や
逆に軽度の低血糖でも激しい症状が出ることがあり、血糖値の数値だけでは、症状の重さを測れない点がインスリノーマの難しいところです。
診断
当院では、文献などに基づきフェレットの血糖値が70mg/dl未満の状態を病的な低血糖症と定義しています。
症状が現れていなくても、潜在的に低血糖症を抱えているフェレットは多く、
実際、フェレットのインスリノーマは、健康診断時の血液検査で発見されることが多いです。
そのため、3歳までは年に1度、ワクチン接種の際に健康診断を受けること、4歳からは年に1度の頻度で血液検査を含めた健康診断を受けると安心です。6歳からは半年に1度は血液検査を受けた方が良いでしょう。
フェレットのインスリノーマの治療
治療はステロイドの内服による内科的管理を行います。
ステロイド (プレドニゾロン) の投与を受けると、体内ではインスリンの効果が減弱し、肝臓において糖の合成が活発化すること等によって血糖値の増加が図られます。
ステロイドの効果が不十分となった場合には、当院ではジアゾキシドという薬剤の投与をご提案しますが。効果に個体差があるので、第一選択の薬剤としては、文献通りにプレドニゾロンを採用しています。
また外科的治療(腫瘍の摘出)は、効果が一時的であることが多いため、他の目的のために開腹手術を実施する場合において、膵臓にインスリノーマが発見された場合にはそれを摘出しています。しかしながら、インスリノーマの影響を完全に排除することは困難であり、薬物療法の継続は必要となります。
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フェレットのインスリノーマの予後
多くの場合において、インスリノーマは比較的長期間に渡って投薬により安定した生活の質を維持することの出来る慢性疾患であると考えられます。
しかしながら、インスリノーマは進行性の疾患であり、その進行の速度には個体差がありますが、進行の度合いに応じて、投薬量の増加などの調整を随時行うことが必要となります。また、長期間にわたって安定していた病状が、急速に悪化し薬剤コントロールが不可能な状況に陥る場合も発生しうる疾患です。
文献上の生存期間に関するデータは、内科的治療の場合には180~267日、504日、36~273日、と各文献により大きく異なるデータとなっています。臨床的に進行速度に個体差が大きく見られることを文献上も裏付けられています。
当院では、多くのフェレットを見てきた経験から、血液検査の数値だけでなく、フェレットの臨床症状を重視して治療を行っています。外見での評価を80%、数値での評価を20%の割合で考慮しています。
まとめ
フェレットのインスリノーマは、早期発見と適切な治療により、長期的に管理可能な慢性疾患です。定期的な健康診断と、症状の変化に注意を払うことが重要です。
ご不安な点がありましたら、まずはどうぞお気軽にご相談ください。
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