メスのウサギを飼育する場合において、避妊手術を実施することは極めて重要であると考えます。

避妊手術(当院においては卵巣子宮全摘出術を実施します)は、犬猫の場合には極めて一般的な手術となっており、犬猫に対して避妊手術を行うことを飼い主様が選択することは、飼育する上での常識となっていると言っても過言ではありません。
一方で、ウサギの場合には、現在においても避妊手術の選択は一般的にはなっていないのが現状です。

この理由はいくつかあると思いますが、一つはウサギの避妊手術を実施する獣医師がまだ少数であるということが挙げられると思います。結果として、獣医師の側からのウサギの避妊手術についての啓蒙が手薄になっているかと思われます。この点につきましては、当院などのウサギを積極的に診療する動物病院がこれまで以上に情報を発信する責務があると思います。

次に、飼い主様の側において避妊手術に対する危険性に対する必要以上の危惧があるのではないかと思います。当院でも『麻酔をかけたらウサギは死んでしまうのではないか』とか、『開腹手術自体に耐えられないで死んでしまうのではないか』などの話しを飼い主様から伺うことが多々あります。

少なくとも当院においては、避妊手術のウサギに対する危険性と犬や猫に対する危険性に差は認められません。2004年の開業以来死亡事故はゼロです。

私が声を大にして強調したいことは、ウサギの避妊手術は、危険性が同等の犬猫と比較して、その重要性、必要性が極めて高いという点にあります。

その理由は、中高齢期になったメスのウサギには、子宮や卵巣の主に腫瘍性疾患の発生率が極めて高率に認められるということが挙げられます。具体的には、6歳のウサギの6割から7割に子宮腺癌や卵巣腫瘍などの腫瘍性疾患が発生しているというデータがあります。これは犬猫の場合を遥かに上回る高い確率です。
私の経験でも、ある期間に3歳から6歳のウサギを避妊手術した結果、その90%以上に子宮卵巣の疾患が見つかりました。しかもこれらのウサギはすべて外見上健康であったのです。
これだけ高率に発生するウサギの子宮卵巣疾患の怖い点は、ある程度進行するまで外見上は健康に見えることにあります。直径2~3センチの腫瘍が発生していることも珍しくはありません。
また、ある程度腫瘍が発達した結果として発症する際には、激しい出血を伴うことが多いことも強調すべきであると思います。
多くの場合には子宮内部に出血が発生して、外陰部からの出血として認められます。しかも、排尿と共に血液が排泄されるため、膀胱からの出血である血尿との区別が困難である場合もあります。
特に子宮からの出血が軽度である場合には、区別はさらに困難となります。子宮からの出血であれば早期の手術が必要ですが、血尿であれば通常は内科的治療が優先されるため、手遅れとなる前に極めて困難な判断が必要となります。
実際に、過去には来院時には既に出血多量のため手術も不可能な状態となっていた症例もありました。

このように、ウサギの診療の現場において、余りにも多くの子宮卵巣疾患の症例を診る機会があるため、メスのウサギの飼い主様には生後1年以内の卵巣子宮摘出術の実施を強くお勧めしている次第です。
1年未満とする根拠は、手術に際しての技術的問題が理由であり、基本的には二歳でも三歳でも十分に意味はあると思います。極論を言えば、子宮卵巣に病変が発生していても、出血などの重篤な臨床症状が発生する前であれば手術をする意義は極めて高いと考えます。
技術的問題とは、生後一歳を超えると多くの場合においては腹腔内に脂肪が急激に多量に沈着する傾向がウサギにはあるためで、その結果として子宮や卵巣が探しにくくなり、なおかつ摘出しにくくなることが理由です。この問題に関しては、ウサギの避妊手術の経験の豊富な術者が慎重に手術をすれば何の問題も無く解決できますが、手術時間はやや延長します。
私としましては、脂肪沈着の少ない生後6ヶ月頃をお勧めしています。

これまでのところ、当院においてはウサギの避妊手術が原因の死亡事故は発生しておりません。
麻酔に関連した死亡リスクはゼロではありませんが、犬猫の避妊手術と同等であると判断しております。特にウサギの麻酔に関しては、呼吸管理が非常にシビアである点は犬猫の手術以上の注意が必要であることは事実です。この点については、声門上気道確保デバイスと呼ばれる器具を用いることで、以前のマスクによる麻酔法と異なり気道確保を確実に実施できるため、安全性が非常に高くなっています。また、800グラム台の小型のウサギであっても、体温や心電図はもちろん動脈血酸素飽和度や血圧、換気状態など各種測定項目をモニターすることにより麻酔中の安全の確保に努めています。
また、手術後において、手術創の糸を自分で齧る場合がありますが、この点に関しては吸収性の縫合糸を皮下組織内に埋没させる皮内縫合で対処することでほとんどの場合は解決できます。
当院では多くの場合には皮内縫合を実施しています。皮下組織が非常に薄いウサギの場合には通常の縫合法を実施します。金属製のステープラーと呼ばれる皮膚縫合用の器具を用いて縫合糸を使わずに縫合する場合もあります。
極めて稀に、皮内縫合を行っても手術創の皮膚そのものを齧る場合があり、この場合にはエリザベスカラーの装着によって解決しています。ただし、カラーの装着はストレスが多く、食欲などの状況を見ながら最小限の期間の装着にしています。
以上の通りのネガティブな点は存在しますが、手術をするメリットのほうが遥かに高い状況であることは間違いありません。

繰り返しになりますが
メスのウサギには、生後6カ月頃に避妊手術(卵巣子宮摘出術)を受けていただくことを強くお勧めいたします。

投稿者: くらた動物病院