メスのウサギの避妊手術の重要性について
川崎市、多摩市、横浜市、稲城市、大田区、目黒区、世田谷区の皆さん、こんにちは。
川崎市高津区のくらた動物病院院長の倉田英樹です。
2024.07.29最終更新
メスのウサギの避妊手術の重要性について
今回のブログで私が声を大にして強調したいことは、
ウサギの避妊手術は、その重要性、必要性が極めて高いという点にあります。
ウサギを家族の一員として飼育する方が増えていますが、メスのウサギの健康管理において、避妊手術は非常に重要な選択肢です。犬や猫の飼い主にとって、避妊手術はほぼ常識となっていますが、ウサギの場合はまだそこまで一般的ではありません。
しかし、実はウサギこそ避妊手術が極めて重要な動物なのです。
メスのウサギの避妊手術の重要性について分かりやすく詳しく説明いたします。
なぜウサギの避妊手術が重要なのでしょうか?
1. 高い腫瘍性疾患のリスク
最も重要な理由は、中高齢期のメスのウサギに子宮や卵巣の腫瘍性疾患が非常に高い確率で発生するということです。具体的には、6歳のウサギの60〜70%に子宮腺癌や卵巣腫瘍などの腫瘍性疾患が発生するというデータがあります。これは犬や猫と比べてもはるかに高い確率です。
過去の私の経験でも、ある飼い主様が飼育されていた3歳から6歳のウサギ9匹の避妊手術を行った際に、全てのウサギに子宮卵巣の疾患が見つかった事があります。
しかも全員が外見上健康であったのです。
2. 子宮卵巣の疾患の症状が現れにくい
ウサギの子宮卵巣疾患の怖い点は、ある程度進行するまで外見上は健康に見えることです。
直径数センチの腫瘍が発生していても、元気も食欲もあり外見からは分からないことが珍しくありません。ある程度進行してから尿に血液が少し混じる事で飼い主様が異変に気付くことになります。しかし初期の段階では血液の混入が一過性であることが多く、見過ごされてしまう場合も多く見られます。
3. 突然の重症化
腫瘍がある程度発達すると、子宮内部からの出血の程度がひどくなり、尿中への血液の混入の頻度が増加します。排尿ごとに血液が混入することも珍しくはありません。このような状況になってから動物病院を受診する場合が多く見られますが、この場合でも飼い主様は血尿を疑って来院されることが大半を占めています。子宮からの出血であれば早急な手術が必要ですが、血尿であれば通常は内科的治療が優先されます。
そのため、獣医師であっても膀胱からの出血なのか子宮からの出血なのか適切な判断を下すのが難しく、手遅れになる場合があります。
さらに、突然急激に出血量が増加し、排尿とは無関係に外陰部からの持続的な出血が見られるようになる場合もあり、この状況になると貧血が急速に進行するため、致命的になる場合もあります。
避妊手術のタイミング
このように、ウサギの診療の現場において、余りにも多くの子宮卵巣疾患の症例を診る機会があるため、メスのウサギの飼い主様には避妊手術(卵巣子宮摘出術)の実施を強くお勧めしていますが、成書によるとその適切な時期は生後半年から1歳以内とされています。
なぜ1歳以内なのか、これには技術的な理由があります。ウサギは1歳を超えると腹腔内に脂肪が急激に蓄積される傾向があります。
そのため、子宮や卵巣を見つけにくく、摘出しにくくなるのです。このため性成熟に達した生後半年以降1歳以内に手術を受けることが推奨されています。しかしながら、私個人の経験では、1歳以前の手術よりも1歳を超えて2歳ごろまでに手術を受けて頂いた方が、手術後の体調の回復がより速やかであるように思われます。よって、私は1歳から2歳の間での手術をお勧めしています。
避妊手術に対する不安
多くの飼い主さんは、ウサギの避妊手術に対して不安を感じています。「麻酔をかけたらウサギは死んでしまうのではないか」「開腹手術に耐えられないのではないか」といった心配の声をよく耳にします。
しかし、実際には、適切な技術と設備を持つ動物病院では、ウサギの避妊手術の危険性は犬や猫と同程度です。
安全性を高める取り組み
1. 麻酔管理の改善
ウサギの麻酔には細心の注意が必要ですが、最新の技術により安全性が向上しています。例えば、声門上気道確保デバイスという器具を使用することで、確実に気道を確保できるようになりました。
2. モニタリング
800グラム台の小型のウサギでも、体温や心電図はもちろん動脈血酸素飽和度や血圧、換気状態など各種測定項目をモニターすることにより麻酔中の安全の確保に努めています。
3. 術後管理
鎮痛剤を十分に使用することと、吸収性の縫合糸を皮下組織内に埋没させる皮内縫合を行うことで、殆どの場合にはウサギが手術部位を気にして傷口が開いてしまうことはありません。極めて稀に皮膚そのものを齧る場合には、エリザベスカラーの装着で対処します。
また皮内縫合をすることで抜糸の必要がなくなり、ウサギへの負担が少なることも皮内縫合のメリットとなります。
結論
ウサギの避妊手術にはいくらかのリスクがありますが、手術経験の豊富な獣医師のもとで実施すれば、そのリスクは最小限に抑えられます。ウサギ自身にとっても、避妊手術を受けるメリットのほうが遥かに高い状況であることは間違いありません。
ただし、個々のウサギの状態や飼育環境によって最適な選択は異なる場合があります。
避妊手術を検討する際は、必ずウサギに詳しい獣医師に相談してください。
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